従京都之御書付給候、并御添状具披見、内ゝ遂一雖可及貴答、還相似慮外候歟之間、先令閉口候、畢竟自最前之旨趣、貴老淵底御存之前、委細被仰候者、可為本懐候、猶罪之被糾実否候様所希候事、一両日以前以使申候キ、津田・冨田方へ申遣五ヶ条入御披見上、重説雖如何候、猶申候、名胡桃努自当方不乗取候、中山書付進之候キ、御糾明候者、可聞召届事、
一、上洛遅延之由、被露御状候、無曲存候、当月之儀、正、二月にも相移候者尤候歟、依惑説、妙音・一鴎相招、可晴胸中由存候処、去月廿余日之御腹立之御書付、誠驚入候、可有御勘弁事、
右之趣、御取成所仰候、恐々謹言、
十二月九日
氏直(花押)
徳川殿
→小田原市史 史料編1986「北条氏直書状写」(古証文五)
1589(天正17)年に比定。
京都よりの書付を受け取り、添え状も詳しく拝見しました。内々で逐一お答えいただけるだろうとはいえ、かえって慮外のことになってしまうかと思い、まずは閉口しています。結局、最近の趣旨については、あなた様は本当のことをご存知ですから、その詳細を仰せになられれば、本懐です。さらに罪の実否をただされるのは、望むところです。一両日以前に使者をもって、津田・冨田へ申し伝えた5箇条をお見せしております上は、重ねての説明はどうかと思いましたが、さらに申します。名胡桃は絶対に当方から乗っ取ったのではありません。中山の書付を進呈しますから、ご糾明されるなら報告されるべくお届けのこと。
一 上洛遅延のことを披露したお手紙。つまらないことです。当月のこと、1月・2月にも移せばよいものではありませんか。不穏な噂により、妙音院と一鴎軒を招き、胸中を晴らしたいものだと思っていたところ、先月20何日のご立腹の書付で本当に驚いております。ご勘弁いただけないかということ。
右の趣旨でおとり成しを仰せになって下さい。