無沙汰

無沙汰とは沙汰がないことを指すが、具体的には以下の事例のように使われている。義務を果たさないというニュアンスが最も強く、社会的な状況から徴発の無視・サボタージュの例が多いようだ。

外交に関わるもの

万乙景虎可存無沙汰覚悟候共

努ゝ非無沙汰候

上の『万乙』は意味が取れないが、後半は「長尾景虎に与同するつもりはないだろうが」で間違いない。下は後詰の遅延が政治的意図によるものではないと強調したもの。どちらも政治的距離が遠くなる意味合いで使っている。

納税に関わるもの

詞堂領年貢令無沙汰之事

もしすこしも御ふさた申候ハゝ、めしはなし候て

上は禁制。下は寄進地からの納税が滞ったら代官を罷免してよいと通達したもの。どちらも無沙汰とは納税がない状態を指している。

連絡に関わるもの

余ニ無沙汰之様ニ可被思召候条

取乱之条、早々覃御報候、非無沙汰

上は現地の徴税担当者が「余りに無沙汰だと思われたので」と途中経過を報告したもの。事態が進展していないが、交渉のサボタージュだと誤解された節がある。下は武田信虎が急遽駿河へ赴くことになって慌てて連絡したもの。疎意からではなく、本当に慌しいのだというニュアンス。

徴発の無視・サボタージュに関わるもの

若至于無沙汰之族者

神社之修理、不可有無沙汰者也

各同心之者陣番並元康へ奉公等於無沙汰仕者

若奉行就無沙汰申付者

致無沙汰付者、即令打散

無沙汰付者、可為曲事旨

若無沙汰之在所有之者、請御意、過銭之儀可申付者也

是又無ゝ沙汰可走廻事

致無沙汰人衆等

例が多いのでとりまとめるが、どれも作業員や物資の徴発を拒むことを「無沙汰」としている。沙汰の語例を追っていないのだが、沙汰を「徴発義務の決定」とすると、それを無視することを無沙汰としていたのではないかと思う。そこから派生して外交・納税・連絡でも義務違反の意図で使われるようになり、現代語では連絡の範囲のみで「ご無沙汰しております」と使用していると推測できる。

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