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私は折りを見て古書店を訪ねるのが好きだが、ブックオフは特に行くよう心がけている。不本意に二束三文で売りに出されている良書をサルベージするためだ。秋葉原店では、『日本城郭大系』の福岡・熊本・鹿児島編が1,000円で売られていたりした。

そんななか、ブックオフ多摩センター店で驚くような掘り出し物を発見した。羽深律が完訳を目指した『南総里見八犬傳―完訳・現代語版 』の第2巻が、なんと100円で売られていた。私が古文書を読むきっかけになった思い出深い本だ。もちろん購入。

あれは1998年頃だったと記憶しているが、近所の図書館でこの羽深版八犬伝を借りて世界が変わった。八犬伝は様々にリヴァイズされて現代に流布しているが、羽深律氏のように原文を遂一解釈している詳訳はなかった。登場人物や作者が何かの由来を語り出すとそれが無闇に長い。多くの現代版はこの冗長さを嫌い、そしてまた現代語のリズムに置き換えてしまっている。セルバンテスの『ドン・キホーテ』も同じような状況だが、どちらも原書に忠実な方が圧倒的に面白い。現代人の賢しらな小細工などはかえって興醒めである。
それはさておき。とにかくこの八犬伝は無類に面白く、一気に読んでしまったのだけれど、第6巻で途切れていた。物語としては不安定な箇所が一応終わって、後は犬江親兵衛の独壇場と関東大戦の予定調和だったから「まあいいか」という気にもなったのだが、やはり先は気になる。他に出版されているのは抄訳か原書しかない。さんざん逡巡した挙句、結局「続きを読みたい」という衝動のままに、岩波文庫の原書版に挑戦した。と、意外にもすらすら読める。曲亭翁の流れるような文体と総ルビに助けられながら最後まで読み通した。これで弾みがついて、戦国期の古文書を読み始めた。

第2巻は特に寂莫道人肩柳こと、犬山道節が華麗に登場する。表紙も火遁を使う道節。『忠』の珠を持つ彼は八犬士の中でも贔屓にしているので、何度読んでも楽しい。

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