喪神記シリーズ

化野燐著・角川文庫。現在までに2作出ている。私はたまたま2作目から読んでみたが、かなり興ざめなシーンもあった。それぞれ独立してはいるものの、流れとしては1作目から読み進むことが想定されているようだ。対象年齢が若そうだし本格推理でもないのに読んだのは、例によって「帰り道読む本がない」事件が発生したため。

考古探偵というキャラクターを使い、遺跡の発掘現場で発生する事件を取り上げている。主人公は内省的で劣等感の強い不器用な男、肝心の考古探偵は憎まれ口を叩きつつ、何だかんだで主人公を気遣って色々と世話を焼く、という構成。どことなく京極堂シリーズ(京極夏彦著)をライトにしたような感じだ。

そこが歴史にどう関係するかというと、この作品では事件の動機に、歴史に対する人々の負の感情をうまく物語に取り込んでいるのだ。発掘成果を巡り野心を抱く自治体職員とか、自説に拘泥する余り狂信的な設備投資をする学校関係者とか。『歴史』に飲み込まれてしまったような人物が多数登場する。自ら作ったストーリーに同調して仮託する余り、主体がどちらか判らなくなった感じ。そういう人々は、実は現実世界にも多い。

そのファナティックで突飛な行動をうまく流し込めているので、私は興味深かった。色々と荒削りな作品だが、そのメッセージ性を評価して今夏予定の3作目を買ってみようと考えている。

ただ、1点だけ残念な点がある。考古探偵と並ぶ扱いで文献史家が現われる。彼は大きなリュックにいつも文献を持っているのだが、それは「何があるか判らないから史料を持ち歩いている」という理由で説明される。どうやらこの文献史家は古代史専門のようだ。だから量も少ないのかも知れないが、「そんな少量でいいの?」という疑問を誰も発しない。私は学者ではないのだが、少なくとも戦国史料は1冊が重くて大きい。リュックで管理できるとは思えず、台車か、せめて車輪つきのトランクケースが必須ではないか(近世なら軽トラックか)。この文献史家自体は文献を駆使した推理もしないのでうるさく言う必要はないのだが……でもなあ。できれば、極端な書斎派か図書館から出てこないようなキャラに設定してくれてもよかったんじゃないだろうか。ちなみに、常に綺麗な白衣を着た考古探偵に、リュックを担いで徘徊する文献史家って、人物設定が逆に思えてならない。ちなみに、その文献史家は「相手のレベルが低いとその言説を煽って煙に巻く」悪癖があるという。これは文献派の不毛な論争を皮肉っているのか……。

過剰な仮託の副作用については、何れしっかりと考察してみたいと思う。どうも『歴史ブーム』というものが厄介な方向に行きそうなので。「A(織田信長 or 坂本龍馬 etc)が殺されなければ日本は今頃もっとよくなっていたはず」(Aは現代人から見て正しいよう加工された人物像)的な見方が、戦前の皇国史観を髣髴とさせるのがどうにも気がかり。

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