山室恭子著・講談社学術文庫。結論から言うと、

絶対的な名著なので、時間があるならこのサイトを見るよりこの本を買うべき!

である。ぜひご購読を。

20130623

 

私事ながら、このところ本業がずっと多忙を極めており、書店に顔を出しても、選書や学術文庫のコーナーには寄らずにいた。一つには近所で贔屓にしている書店は歴史棚がそれなりに気が利いていて、それ系の文庫・新書・雑誌も集約してくれている。そんな油断をついて、『中世のなかに生まれた近世』が講談社学術文庫で復刊されていた。……やはり巡回ルートはきちんと守らないと、ろくな事にならないという教訓になった。

それにしても慶事である。いつの間にか絶版に近い状況になってとても悲しく思っていたのだが、定評ある講談社学術文庫に入ったということでひと安心。ひと月遅れという不覚ながら早速入手したので、ご紹介を試みようと思う。

本書は、中世から近世への端境期に生きた戦国大名たちを、黒と白に分けるという印象的な手法で分析している。

黒は印判を用いて本格的な官僚機構を備えた大名家。後北条氏がその代表格で、大量の文書を隅々にまで発行し、徴税能力が高く大規模なインフラ整備も可能な体制を築いている。武田・今川に広がり、織田・羽柴に受け継がれていくシステムだ。

対する白の大名は、印判ではなく自ら花押を付した書状を家臣に渡す手法をとっていて、人と人のつながりを重視したゆるやかな統治を展開している。こちらは西国の毛利氏・大友氏・島津氏など広汎にわたって存在していた。

この黒白の大名たちがどうやって変化し淘汰され生まれてきたかを、それぞれの家別・地域別に検証するのがこの本の目的だ。

だが、その凄さは史料へのアプローチにある。黒白の色分けを、文書1つ1つを詳細に検討しながらコツコツと行なっているのだ。結論には最後の最後まで飛びつかない。書札礼のありようのみを愚直に追い続けて、慎重過ぎるのではないかと焦れて仕方がないほど考えてから、黒の大名の始点を推測するに至る。……ここから先は手にとってご堪能を。

この『中世のなかに生まれた近世』は山室恭子氏のデビュー作なのだが、私の中では『東と西の語る日本の歴史』(網野善彦)、『新・木綿以前のこと』(永原慶二)に並ぶ衝撃作だった。古文書が持つ妖しい多元解釈の世界を、こうもきれいに編み上げることができるのかと、しばし言葉を忘れたほどだった。いわばこのサイトの出発点と到達点が同時にここにある訳だ。

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