小田原 2

※本エントリは1998年と2010年の小田原を比較した個人的な覚書である。

前のエントリ「小田原1」の続き……。

幸田門を更に進む。ナック中村屋は外見そのままで健在にも思えるが、内部を見ていないので判らない。ここは古いデパートだった。そのはす向かいにあった志沢も老舗のデパートで、山下清のサイン会を行なうなど、一時期は地域の文化振興も担っていた。現在はスーパー銭湯になっている模様。手前を右に折れて栄町1丁目の交差点に出る。直進して大工町に行くと、かなりシャッター街っぽくなっていた。ここは1980年代から怪しかったので、ゆっくりと退潮しているのかも知れない。伊勢治書店は残っていたが、向かいのオービックビルに八小堂書店はなかった。ここの八小堂オービック店で、1981(昭和56)年に刊行されたばかりの『日本城郭大系第6巻 神奈川・千葉』を購入したことを今でも覚えている(何故か平山郁夫の版画が付いてきた)。平凡社の『QA』と出会って雑誌編集の魅力を知ったのもここ。ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』もここで入手した。翌年、2階奥のPCショップ(これももうない)で、当時はマイコンと呼ばれていた『MZ-80K2E』を買った。このどれもが、現在に至るまで私の人生の基礎となっていることを思うと、何ともやるせない気持ちになった。ちなみに、伊勢治のことを小田原人は「いせぇじ」と呼んでいた。「御幸の浜」を何故だか「みゆきがはま」とも呼んでいた。

そのまま大工町を直進して高野書店に行き、無事に『小田原市史 史料編中世2 後北条氏1』を購入。伊勢治まで戻ったら右に折れる。茶半家具でも見に行こうかと思ったが、時間も押しているので『旧ニチイ』と思しきビルを通り抜けてダイヤ街に向かう。その際に「おもちゃのあさひ屋」の濃緑の看板を発見。物心ついた頃から、ニチイの上にこの看板はあった。そして、あさひ屋の濃緑の包装紙の匂いが思い出される。あの紙包みを空ける時の胸の高鳴りと共に……。

ニチイの面影を全く留めていないビルを抜ける。昔、ニチイの地下には何故か『寿がきや』があって、そこのうどんが100円なのに美味だった。高校生の頃はやたらと行っていたものだ。抜けるとそこは旧長崎屋のビル。ドン・キホーテか何かが入っていたがスルー。右手に『魚國』・『岡西』が健在なのを見つけてほっとするも、東映だった場所は『ラーメン宿場町』という変な空間になっていた。

左手に向かう。「仲見世は多分ないだろうが、何かの痕跡がないか」と仄かな期待を抱くも、全くもって消されていた。仲見世とは屋根がついた商店街なのだが、何故か曲がりくねっていて天井も低かった。食料品店を中心にした、戦後ヤミ市っぽい猥雑さを持った空間であった。ここの鰻屋『正直屋』の鰻が大好きだったし、目の前で鰻を捌いているのを眺めるのも乙なものだった。親類の間では三島の『うなよし』が最高評価だったが、私は心中で正直屋に勝るものはないと確信していたものだ。

ダイヤ街を南下する。『十字屋』はもうないだろうけど、同じビルなら通り抜けしたいと考えていたが、建物ごとなくなっていたようで断念(ビルの横の隙間もなくなっていた)。あのビルは階段や踊り場が奇妙な配置で面白かった(販売物は女性用衣類だったので物を買ったことはない)。

再び栄町の通りに出て、駅に向かう。通りの向かいに、釜飯をよく食べに行った『鳥ぎん』を確認。スズメを頼んだら、骨っぽくて食べれなかったのもついでに思い出した。鳥ぎんの隣には『日栄楼』も、ここだけ時間が止まったかのように完全に同じ形で存在していた。ここはサンマー麺と焼き飯が絶品だ。

駅に向って蕎麦屋『寿庵』の健在を確認できたのも嬉しかったが、その前の三角ビルは公園になっていた。このビルは確か、地上2階・地下1階で、地下には飲食店があったように記憶している。地上は銀行系の何かだった。

奇妙な雰囲気は相変わらずの『おしゃれ横丁』に入り、殺風景な路地裏を辿っていくと、北条氏政・氏照の墓が現われる。昔と比べてきちんと整備されていたものの、目立たない点では高レベルを維持している。墓の前を直進してから曲がり、守屋のパンがあるかを確認。休みだったものの、甘食で著名な名店はしっかり残っていてひと安心。

『ラスカ』と呼ばれる駅ビルに戻る。ビル内には『有隣堂』があって八小堂の不在をまた思い出した。伊勢治・『平井』の各書店はあるものの、駅前・オービックに展開した八小堂の存在が、有隣堂の小田原進出を防いでいたように思う。『小田原市史後北条2』を購入したのが、この書店との別れになった。文庫を買った際に書店の紙カバーをつけてくれるが、その折り込みが独特で、本を優しく包みながら外れない仕様になっていた。鰻の話とかぶるが、昔の年寄りは「本屋と言えば平井」と主張して譲らなかったものだが、私は八小堂に敵う書店はないと確信していた。

ちなみに、帰路に鯛めし弁当を購入するが、昔の6角形の箱ではなく、内容も違っていた。たまたま買ったのが小田急系の店だったからかも知れない……。

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