2010年6月刊行なので、現時点では藤田達生氏の最新著作となる。その割に各書店で見かけることがなく、渋谷啓文堂にたまたまあったものを購入した。

最近の本能寺の変研究は、動機の追及を含めた黒幕探しが横行している。ただ、同じ史料(吉田兼見の日記や愛宕百韻、信長公記)ばかりが深く掘り下げられ、瑣末な言葉遊びに近くなっているように思う。この辺りは桶狭間研究と同じ状況ではあるが、まずは1次史料を広く浅く集積して、そこから様々な可能性を検討しなければならない。

本書では1次史料を中心に、本能寺の変に関係する資料をふんだんに掲載している。現代語で論旨を書いた後は、各章で援用した史料を書き出しているのだ。これは判り易いし、もし著者への反論がある場合にも、論点を明快に出来る。これからの歴史研究書のスタイルを暗示した良書である。

もう1点メリットを挙げるならば、各資料には読み下し文がついているので、古文書初心者には勉強になる。いくつかは納得がいかなかった点もあるので別エントリーで検討するが、長年戦国史を研究してきた著者の読み下しが読めるというのは素晴らしいことである。

同じ1次史料を俎上に載せつつ、さらに核心に迫る後続の研究が出てくることを期待したい。

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