読み方は「きっと」で確定しているものの、現代語とは異なり「必ずや」というよりは、「速やかに」の意味があるように思われる。以下、文書を確認する。
1 文頭に存在し「取り急ぎ」といった意図で使われているであろうもの
- 急度以使申候
- 急度註進申候
- 急度申候
- 急度申遣候
- 急度令申候
- 急度染一筆候
- 急度捧愚書候
- 急度令啓上候
- 急度令馳一簡候
- 急度馳筆候
2 文中に存在し「取り急ぎ・必ずや」どちらの意図にも取れるもの。
- 尚以、急度進退者被替候而、尤に存候ゝゝ
- 遣内書間、急度加意見無事之段、可馳走事肝要候
- 雖然大井徒就相揺者、定而急度可引退候哉、其上之行
- 着到を付、急度可申越、於今度諸人不走廻而不叶候
- 右、何茂委可注給候、得御意急度可申付候
- 令遅ゝ候、此上ハ急度致出陣、葛西筋儀、涯分可走廻候
- 註交名、急度可有註進之状、
- 右之二ヶ条、急度可奉果行者也、
- 各ゝ粉骨感入候、此趣氏康へも急度可申届候
- 寄子貮拾騎預ヶ置候、急度可相尋候
- 輝虎依存分、急度重而可被差下御使節事
- 就有無沙汰者、急度可加異見者也
- 及兎角条甚以曲事也、急度伝馬銭相調、台所野中源左衛門爾可相渡
- 然上者、不令異見急度被出人質出仕候様
- 弥以被廻計策、急度御落着簡要候
- 被仰出候、急度以現夫可走廻者也
- 以彼是一向不如意迷惑候、同者急度有出来御意見可為本望
- 先当年貢急度可弁済物也
- 去十九卯刻ニ端城押入乗取候、爰元急度落居候者、重而可申展候
- 今度加藤与五右衛門曲事ニ付て、急度加相成敗候
- 急度可有御入院候
- 急度申付可令所務
- 急度可被申越之事
- 其上を以而急度可申付
- 急度召連当地可来候
3 「必ずや」でなければ意図が通じないもの
若於違犯之輩搦捕、急度依注進可処厳過者也
2が最も多くなったことから、文意から主用例を判断できないようだ。では、「急度」でしか見られない意味があるかというと、「急ぎ」という表現には「火急」「速」「急速」など、他の語も多く見られる。また、「必ずや」にも「必々」「必」という直接的な表現がある。こちらも判断材料にはならない。但し、「急度」が両方の意味を曖昧に持っていることから選ばれている可能性はある。
同時代に近い辞書を引くと以下のような記述がある。「きと」は「きっと」の原型で、撥音で強い意味を持ったのが「きっと」となる。
■邦訳日葡辞書
Qitto キット(急度)[副詞]、速やかに
■時代別国語辞典
きっと[副詞] 1)時期を逸せず、的確に事がなされるさま 2)「きっとみる」などの言い方で、鋭い視線を対象に当てて、その本質を見抜こうとするさまを表わす 3)「きっと~して(した)」の形で、毅然としてあたりを払うばかりのきびしい姿勢、態度を持するさまを表わす 4)事態が、予測したり期待したりするとおりに確実に実現されるものと判断するさま
きと[副詞] 1)行動が核心に向けて、直接になされるさま 2)対象をあやまたずとらえるさま
時代別国語辞典を勘案するならば、「毅然として」「必ずや」「速やかに」の3パターンとなる。ただ、日葡辞典には「速やかに」の意しかない点、文頭の決まり口上によく使われた点を考えて「取り急ぎ」という現代語を当てておきたいと思う。
現代語「取り急ぎ」は「可及的速やかに」に近しく、予見された行為・もしくは現在行なわれている行為の実行を前提としている。これを「急度」解釈に援用する企図となる。
「取り急ぎ確認いたします」という場合、話者は確認行為を必須前提としつつ、可能な限り急ぐことも意図に加えている。「急ぎ確認します」と「必ず確認します」を兼ねており、この両義性は「急度」に通ずるものがある。そして、メールの文頭で略儀の言い訳に使っている点でも両語は似ている。
上記を受けて3を考え直してみると、
→必と解釈
「もし違反する輩がいれば逮捕し、必ずや、報告によって厳罰に処すだろう」
→速と解釈
「もし違反する輩がいれば逮捕し、速やかに、報告によって厳罰に処すだろう」
→必・速両義と解釈
「もし違反する輩がいれば逮捕し、取り急ぎ、報告により厳罰に処すだろう」
となる。原文を重視して「急度」の語順は変えていないが、現代文であれば「報告によって」の後に移動するだろう。「必ずや」と「速やかに」のどちらでも意味は通ずるものの、意図は異なる。
この両義を保持するならば「取り急ぎ」と記述することで文のニュアンスに合わせられるものと判断した。
お約束通り、「急度」の用例をとりまとめていただきありがとうございました。
早速、プリントアウトして、資料にファイルしました。
今から大学に向かいますので、帰ってからゆっくり拝読させていただきます。[にこっ/]
コメントありがとうございます。急度=「取り急ぎ」という解釈だと、「取り急ぎ」に「必ずや」のニュアンスが薄いため、結構無理があります。「急ぎ」「必ずや」を使い分けるか、文中に溶け込ませようかとも思いましたが、語が拡散するのは望ましくないと考えて1語に集約しました。何かよい代替語があればお知恵をお貸し下さい。[うーむ/]
高村さん、多数の事例を挙げ的確に整理していただいたので、これからの文書解釈方法にとてもよい指針となったと思います。
>「急度」が両方の意味を曖昧に持っていることから選ばれている可能性はある。
この解釈の仕方は、なるほどと感心し、なぜ「急度」が多用されるのかの一端が窺えたように思われます。さすがです。
「若於違犯之輩搦捕、急度依注進可処厳過者也」についてのみは、私は「必と解釈」したいと思います。この場合の急度には、「絶対」、つまり「無条件」に「もれなく」など、「確実性」を強調して、違反者が出ないように相手を威圧する表現ではないかと思います。
>何かよい代替語があればお知恵をお貸し下さい。
現代では、冗談交じりで「おまえを絶対殺してやる!」などと、「比較・対立・関与・制限」などの一切を排除して、自分の悔しい気持ちを相手にぶつけますが、この場合は、親しい関係、友達などに使います。これに対して、権力者が法治を護る場合は「例外なく」の意味合いの「絶対」となるのではないでしょうか。このことから、やはり「必ず」はもっともうまく表現されたことばだと思います。
コメントありがとうございます。ご提案いただいた「必ず」「必ずや」も改めて検討してみます。その場合は「必」「必定」「必々」という言い回しととの差異をどのように考えるかが懸案となりそうです。それにしても、ここまで来ると外国語に近くなってきますね。