4読目になる。この作品は『クリスマス・キャロル』の次に有名な作品で、映画化・アニメ化も何度かされている。しかも、ディケンズにしては短い作品となるために、ストーリーも割合忠実に映像化可能だ。
 前回読んでから5年ほど経過しているが、改めて自分の読み方が変わっていたことに気づいた。当時のイギリスには救貧院という生活保護施設が存在していた。産業革命によって世界最大の経済国家に成り上がろうとしていたイギリスは、急激な社会的変化に対応できず零落した人々を、この救貧院に収容し非人道的な扱いをしていた。この作品の訴求点はここにあり、前読までは私も義憤に駆られていた。ところが、前半を読み終えた段階では、義憤とまではいかないでいる。自分でも不思議だ。
 居丈高で何も考えていない役人や、救済金に群がる小悪党には怒りを感じるものの、ディケンズの筆致が少し青臭く感じてしまう。「震えている貧者にも実は裏があるんだよな」と思ってしまうのだ。私自身、変な経験を積み過ぎたのかも知れない。
 物語の冒頭で、行き倒れて救貧院に運ばれた若い女が男児を出産して死ぬ。この男児が適当につけられた名前が『オリバー・ツイスト』となる。オリバーは救貧院から葬儀屋に徒弟で出され、ここで騒動を起こして出奔する。その後ロンドンに出て盗賊団に入る。スリの現場で立ち尽くしてしまったところを逮捕されるが、人情味溢れるその被害者に保護されて幸せを手に入れた……ところが、使いに出たオリバーは昔の仲間に連れ去られ、今度は強盗のため他人の屋敷に忍び込むことに。そして家人が発砲、オリバーは致命傷を負う。
 ここまで、オリバーと作者の主観を除いて簡潔に筋を追ってみたが、こうやって見ると「小心で不運なゴロツキ」にしか見えない。勿論ディケンズはオリバーの純真な心を擁護して描写しているし、オリバー自身も精一杯運命に抵抗する。しかし、やはり世間が結果だけを見るならば彼はゴロツキに過ぎない。
 ここが、今回私がディケンズの筆致に乗り切れないでいる要因なのかも知れない。裏に何やら陰謀が見え隠れしているのだが、伏線が微弱で効いていないし。

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