大いなる遺産 下巻

 下巻読了。やっぱりディケンズは偉大だと思った。素晴らしい。
 高慢で忘恩になったピップは、人生の転機を迎え更生するのだが……何だかラストは興醒めだったかも知れない。ブルワー・リットンの薦めに従ってディケンズがハッピーエンドに組み替えたようだが、やっぱりピップは無力化したまま終わらせて欲しかった。
 「エステラ=果たせぬ夢」という公式で考えてみた。対抗馬は「ビディ=日々の現実」。ピップはエステラに焦がれ、振り回され、ビディという選択肢を捨ててまで追い求め振られた訳だ。そしてビディにも戻れなかったとすると、彼は残りの人生で果たせぬ夢を追憶しながら生きていくしかない。恐らくドストエフスキーだったらそのような終わらせ方をしたのではないか。
 一番胸に迫ったのは、最初に読んだ時と同じマグウィッチ臨終のシーン。何故だか、役人の台詞がとても印象的。その他であれば、ピップが全力でエステラを振り向かせようとして失敗したシーンだろう。一読目は気づかなかったが、ミス・ハヴィシャムの描写が秀逸。
 それから、何故かラストの自然描写がやたらとよい。ストーリー自体は前述の通り「何だかなあ」なのだが、ディケンズはその分描写に力を入れている。そして、大方の読者が期待するようなハッピーエンドは用意せずに仄めかすだけに留めている。
 この作品はほどよい分量にまとめられているし、登場人物の配置やストーリーの緊密さも適正だ。よく出来ている……のだが、ディケンズ作品の中でちょっと優等生過ぎやしないかなあと思ってしまった。

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