2007(平成19)年のNHK大河ドラマが『風林火山』だったことから、数多の武田系書籍が刊行されたが、その殆どが真摯な実証よりは通説を重視した内容だった。
その中で、新書ながら異彩を放った本格派『武田信玄と勝頼―文書にみる戦国大名の実像』(岩波新書・鴨川達夫著)を紹介したい。
武田晴信の武勇伝を期待した向きには肩透かしになるだろうが、本書は古文書の解説に内容を絞っている。羊の皮をかぶった狼といおうか、NHK大河ドラマに仮託した古文書入門書である。ある程度『武田信玄』ガイドっぽく書いてはいるものの、「はじめに」の2ページ目で古文書の写真を掲載してしまっている辺り、失敗しているような感がある……。とはいえ、具体的を見ながら古文書の仕組みを学んでみたいという方には最適な1冊である。
改めて紹介すると、戦国時代の大名がどのように文書をやり取りしたのか、そしてその制約は何かを具体的な古文書で解説してくれている。外交辞令から親しい相手への愚痴、秘密めいたやり取りなどをじっくり解きほぐしてくれるので、歴史が苦手な方でもすんなり読めると思う。武田氏固有の文書形式だけでなく、禁制や判形を巡る当時のルールもきちんと説明されているため、当サイトをご覧になる際にも参考になるだろう。
主役となるのは武田晴信。ドラマや講談に出てくるキャラクターとは異なり、裏切りに怯えて細かい報告を求める小心さと、朝廷相手にブラフをかける大胆さが複雑に入り混じった、リアルな晴信がそこに浮かんでくる。本人証明の署名である花押にしても、晴信の場合は意外に手間のかかる描画方法を使っていたことが紹介されており、「目が痛くて……」「手を怪我して……」と言い訳しながら花押を略す姿も微笑ましい。
具体的には晴信期が殆どで、勝頼は晴信代筆のようなポジションにいたことが語られるに留まっている。勝頼の文書も個性的なものが多いので、この点は物足りなかった。とはいえ新書という枠を考えるならば、驚くほどの文章を内包した良書であることに変わりはないだろう。
こんばんは。
とっても、気になる本が御紹介されている!とのお知らせをいただいたので、すっとんできました。古文書の写真が載っているのが失敗、というのがなぜ?なのかが、イマイチわかってませんが(汗)具体例を見たい方なので、個人的にはうれしいかも、です。
本書では晴信公のリアルな姿が垣間見れそうですけど、勝頼公の文書も見たかったですね。続編希望!って葉書を出してみますか(笑)
明日、早速本屋で購入、読んでみたいと思います!!御紹介いただき、ありがとうございました。
コメントありがとうございます。古文書の写真が失敗というのは、最初の掴みで「古文書解説です」というのが出てしまうと、編集者の思惑であろう「古文書には興味のない読者が、読み易さから古文書の魅力に気づく」というセールスポイントが台なしではないか……と深読みしてしまった次第です。説明不足でしたね。
勝頼像については『武田勝頼のすべて』(新人物往来者)が参考になりそうです。私はきちんと読んでいませんが、内容はしっかりしています。
ちなみに、後半で武田西上作戦の新見解がありますのでお楽しみに 🙂