醜悪な殺人を描いた、ある意味著名なパート。ディケンズがこの殺人部分を晩年に何度も朗読のモチーフに選んでいる。個人的には、ドストエフスキーの「悪霊」はこの件に着想を得たように思う。ただ、仲間内の殺人が冷酷なものであったにせよ、窃盗団全体がこの殺人に動揺したり崩壊したりするのは微妙ではないかと疑問を持った。そんなお人よしで窃盗団をやってられるのか……と。とはいえ、この作品は当時の大衆に大いに受けた訳だから、我々から見て奇妙に映る状況でも、当時は違和感なく溶け合っていたものと理解せねばなるまい。
 実はこの殺人劇はサイクスの悪夢だった、という展開だとカフカっぽい分析になる。ただ、サイクスの精神が崩壊していく様を描いた象徴劇であるならば現代人にとっては判りやすいのかも知れない。
 オリバーの幼馴染ディックを延命させず、幸福感溢れるエンディングにピリっと緊張感を取り混ぜたのはさすが。バンブルの恐妻家ぶりで笑いをとった若きディケンズは、この前年キャサリンと結婚している。何か思うところがあったのか注意しながら読んだが、余り得るところはなかった。まだ読みの深さが足りないかも知れない。

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