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マーティン・チャズルウィット 中巻

 ようやく読了。前半は「これでもディケンズか」という程のつまらなさだった。若マーティンがアメリカに渡りエデンの入植生活で苦労するくだりも、同時代性やイギリス人の心象がないとよく事情が判らない。とはいえ、アメリカが独立当初から持つ問題(独善主義・銃社会・貴族社会への奇妙な憧憬)はこれでもかとばかりに描かれている。そういう意味では興味深いが、いかんせん、くどい。ディケンズはアメリカに行って相当いやな思いをしたのだろう。
 ペックスニフがメアリーに求婚して拒絶され、トムがペックスニフの虚像を自覚する辺りから、物語は俄然面白くなった。やっとディケンズらしくなった気がする。ということは、翻訳に難があるというより、中巻前半で登場する人物たちが退屈だったことになる。ペックスニフ・ギャンプ夫人・そして戯画化されたアメリカ人たちのことだ。どちらも道化回しとして中途半端なのかも知れない。もう1点、物語の鍵を握る老マーティンが精彩を欠いている。この老人はもっと描き込まれてよいと思うのだが。
 結局、若マーティンはアメリカでの苦労で成長して早々にイギリスに戻る。アメリカ行きが主題だったのでは? と思うほどあっさりと帰英してしまうのだ。カフカの『アメリカ』のほうが気が利いているように感じられた。
 ジョーナスの造形は引き続き面白い。前期作品に見られる荒っぽい悪役と、後期作品に見られる複雑な悪役が入り混じっている。相手が間抜けな悪役を演じることで「自分のほうが悪役として上手である」と自惚れる描写があるが、なるほどと思った。
 主要な人物が少しずつロンドンに集まっていくことで物語はいよいよ緊密になり、下巻に続く。こちらは楽しく読めそうだ。

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