ちくま文庫、北川悌二訳。この作品は結構苦手で、一読はしているがその後3回ほど読みかけで放置していた。ネルへの感情移入ができないので、現在でも読んでいてしんどい。ネルは自業自得だと思ってしまう。恐らく、私には「肉親のために献身する」という美徳が根本的に欠如しているのだろう。
ちょうど、前期と後期の中間ぐらいの作風なのも中途半端で思い入れが湧かないのかと思われる。行き当たりばったりな筋運びなのだが、人物描写を含めて踊るような筆致ではなく技巧派への転換が見られる。チグハグさを感じてしまう。
それと翻訳が私と合わない。会話はいいのだが、風景描写は翻訳が厳しい。直訳寄り過ぎる。
ストーリーとしては悲劇の少女というありがちな展開。ただ、言われるほどネルは純粋じゃないような気がしている。状況に流されることで責任をとっていないんじゃないかと思えている。
前回読んだ時よりも、悪役クイルプが面白い。エネルギッシュで狡猾ではあるのだが、21世紀の現実社会から見たら、さほどの悪役とは思えなかった。欲望に一直線の、単純で愛すべきキャラクターではないか。
解説を読んで思い出したが、ディック(リチャード・スウィヴェラー)と女中『公爵夫人』のネタがあった。この話は下巻に向けてとても楽しみである。私の好きなリトル・ドリットの原型が感じられる。何故忘れていたのか不思議。